長野県の災害時ツイッター活用について
NHKニュースでも取り上げられた、災害時の長野県のツイッター活用について、考察を加えます。
経緯を整理すると
10月12日17時11分に、長野県防災のツイッターアカウントから下記のように、被害についての情報提供を呼びかけるツイートがありました。このツイートの中で、ハッシュタグ#台風19号長野県被害 と画像や位置情報を付けるように、との記載があります。
さらに、10月13日5時50分にも、ほぼ同じ内容で、被害の情報提供を呼びかけるツイートがあり、そして同日8時13分には、救助が必要な人は写真や位置がわかる情報をツイートしてください、との内容でツイート(下記)がありました。
こうした長野県防災のツイッターでの呼びかけに呼応して、救助要請等のツイートがあり、それらが50件の救助に役立ったとのことです。
2019年12月1日にFUKKO STUDY と題するイベントが開催され、その中で実際に長野県防災のツイッターを運用している人も登壇し、プレゼンを聴くことができました。そのポイントを以下に整理します。
- もともと #台風19号長野県被害 のハッシュタグで被害等の情報を収集することはルール化していたが、救助要請のツイートが多くなり、救助要請にツイート情報を活用
- 救助要請の投稿者は、本人がツイート、親戚・知人等がツイートで概ね半々(イメージ)
- ツイートの理由は、119番につながらない、つながって救助要請したけど追加(念の為)など
- ちなみに、長野県の外で119番に通報すると、電話した地域の消防につながり、そこから長野県の消防に電話が転送されるが、つながらないか、消防は手一杯な状況と想定
- 救助要請のツイートに対しては、まず長野県防災において、リプライなどで状況を確認し、情報を整理し、関係機関と情報共有。その方法は2つ
- 関係機関が集結する災害対策本部において情報共有
- 情報共有システムに情報入力
- 現行、正式にツイートを救助につなげるスキームは無い
- 個人情報の観点ではDMが望ましいかもしれないが、DMには課題あり
- 救助後に、投稿者に救助要請のツイートの削除をお願いした。結果として、救助されたかを容易に確認できて、これでオッケー
- 励ましのリプライ「絶対に助ける!」について
- 一般的に行政では、大問題になる発言。助けられなかったらウソになる。責任が問われる。
- しかし当時の現場では、要救助者に希望を持ってもらうことが何よりも大事
- 結果として、炎上など問題には一切なってない
以上が、FUKKO DESIGN での中の人のプレゼンのポイントです。
これらを踏まえて、災害時のツイッター活用することについて、考察します。
① つながりやすい
一般に、災害時には電話はつながりにくくなります。今回の台風19号の際にも119番への通報がつながりにくかったと言われています。一方、パケット通信を利用するツイッターは、電話に比べて圧倒的につながりやすいです。
災害時に、住民から情報提供を求めたり、住民や親戚が救助要請する際に、つながりやすい点で、ツイッターのメリットは大きいと言えます。
② 膨大な件数に対応可能
119番への電話は、電話回線数、応対スタッフの人数などから、同時に対応できる件数には限界があります。一方、ツイッターへの投稿は、コンピュータ内の情報処理であり、サーバ処理能力も世界最強クラスと言われていることから、同時に膨大な件数に対応可能です。
災害時に、住民からの情報を集約する際に、同時に膨大な件数を受信可能である点で、ツイッター活用のメリットは大きいと言えます。
③ 写真や位置情報で的確な状況把握
ツイッターは投稿の際に、写真やジオタグと呼ばれる位置情報(衛星測位に基づく緯度経度の情報)を付与できる機能があります。
写真があればリアルに状況を把握するのに役立ちます。また、ジオタグがあればピンポイントで場所の特定が可能です。ちずツイなどのサイトを使えば、自動的に地図上に展開・表示できて便利です。なおジオタグが付与されなくても、投稿文に番地名等を記載することで、位置の特定は可能となります。
このように、写真と位置情報を活用することで、的確に状況を把握できる点で、ツイッター活用のメリットは大きいと言えます。
④ システム開発・維持のコストゼロ
ツイッターを活用するってことは、日常的に使っているスマホやパソコンと、無料のツイッターサービスを使うだけなので、特殊なシステム開発やサーバ維持などに要するコストはゼロです。
⑤ 日常利用のシステムを災害時にも活用
多くの災害事例を踏まえた定説として「災害時に災害専用システムは使われない。日常使っているシステムを活用するべき。」と言われています。
この事例は上述の定説の通りに、日常的に大勢の人が使っているツイッターを災害時に活用するものであることから、システムのトラブルなく、使い方がわからない等の問題もなく、多くの情報が寄せられたものと思います。
今回使われたハッシュタグ #台風19号長野県被害 は、今回の台風19号限定のものであり、次の災害では、当然、違うハッシュタグになるものと考えられます。災害のたびにハッシュタグを変えることについては、混乱、間違いにならないか心配されます。
また、被害状況のツイート、救助要請のツイート、など目的別にハッシュタグを変えるのも良くないと思います。投稿者側の混乱の原因や間違いになる可能性があります。投稿者の負担を減らし、間違いの可能性も減らすように、被災者=投稿者ファーストで考えるべきと思います。また、ひとつのツイートの中に、両方の情報が入っている可能性もあります。
ひとつの提案として、災害時のハッシュタグは、#⚫⚫県災害 #⚫⚫市災害 と全国的に命名ルールを統一するのが良いと思います。当該地域の災害に関する情報は、全てこのタグで統一し、被災状況、救助要請などなんでオッケーとすべきと思います。
被災状況を把握するために検索した人が、自分の近くで救助を求めている人の存在をツイートで認知し、共助につなげるようなことも想定されるので、災害時のハッシュタグは地域別にシンプルに統一すべきです。
絶対にダメなのは、#災害 など全国共通のタグを使うことです。ノイズ情報が多く、場所の絞り込みも困難になるなど、デメリットが大きいです。また、#⚫⚫県被害 #⚫⚫県防災 #災害情報⚫⚫県 など地域別にバラバラの命名をすると、混乱の原因となるので良くないと思います。
⑦ 訓練の実施
今回の長野県の事例は、事前告知なしの災害発生時のぶっつけ本番でした。結果として救助に役立ちましたが、できれば、防災訓練による事前練習を実施しておくべきと思います。
和光市の事例では、防災訓練のメニューの一つとして、現地状況を#和光市災害 のハッシュタグを付けてツイッターに投稿する訓練を実施したところ、その後日、ゲリラ豪雨の際、市役所からのアナウンスが無くとも、市民が自発的に市内の状況を写真付きでツイートし、状況把握に役立ったとのことです。
⑧ 様々な関係者の参加
今回の事例では、長野県から住民に対して被害状況のツイッター投稿を呼びかけ、その中で救助要請に関する投稿があったことから、それらの情報を救助活動に活用したものです。
被害状況を投稿するのは、住民だけでなく、消防団、水防団、災害協定を締結している地元建設会社も、投稿に参加すべきと思います。できれば、行政による災害時の点検・パトロールの実施者も同じように、投稿すべきと思います。
そうなれば、災害時、当該ハッシュタグで検索することにより、誰でも迅速に現地の情報を把握することが可能となり、住民の自主避難など的確な行動につながると思います。
⑨ 共助のきっかけとなる可能性
今回の事例は、ニュース情報を見る範囲では、行政による救助、いわゆる公助に役立てた、とのことです。一方、大規模災害では、時として公的な救助が手一杯となり、住民相互に助け合う、いわゆる共助が重要と言われています。なお、ツイッター投稿は、非公開アカウントでなければ、誰でも投稿を見ることができます。
このようなツイッター+ハッシュタグの災害情報共有が定着すれば、下記のような共助のきっかけとなる可能性も考えられます。
- 災害時に被災者が救助要請をツイート
- 公助が手一杯、交通マヒ等の理由ですぐに救助に行けない
- ツイートを見た近隣住民が現場に行き救助活動
このように、災害時のツイッター活用は、共助=近隣の住民が助けるようなケースに役立つ可能性があると思います。
救助を要請したいが、自分の居場所は絶対に他人に知られたくない、そういった人は、119番の電話をすればよいと思います。
⚫さいごに
テレビが一般家庭に普及するようになって、大きな社会変革が生じました。スマホとSNSの個人への普及は、その時以上に大きなインパクトを与える可能性があると思います。
今後、全ての行政組織が積極的に取り組むべきと思います。
ぜひ、このプレゼン資料も御覧ください。