実るほど頭を垂れる稲野かな

災害時のツイッター活用の提案

ツイッターで災害時の共助の潜在力を高める

 大規模災害では、公的救助=公助は手一杯となり、迅速対応が困難

このため、

 自分自身で身を守る=自助と、近所どうしで助け合う=共助が重要

実際に阪神淡路大震災では、多数の共助による救助が行われました。


 共助が活発に行われるためには、普段から住民相互のつながり、地域コミュニティが重要と言われています。しかし、近年、地域コミュニティの衰退が進んでいます。

 

 内閣府が各地で開催している国土強靭化ワークショップでも、共助のため、近所とのつながりが大切、といったテーマで行われているケースが多い。

 

 さて、災害時、共助=住民相互の救助活動を活発化させるためには、どうしたら良いでしょうか?

案1
住民が公民館などに集まって話し合い、お祭り等を行う地域コミュニティ活動を活性化する。

案2
スマホ+SNSの普及状況を踏まえ、これを活用して災害時のツイッター活用訓練を実施し、災害時の情報共有コミュニティを構築する。

 

 案1に関しては、休日や平日の夜に住民を集める場をセットしても、近年では、人が集まらないケースが多いと思います。労多くして人集まらない。効率が悪いやり方です。

 

 案2は、私が提案している災害時のツイッター活用です。

 防災訓練で、住民が周囲の状況を#〇〇市災害 のハッシュタグを付けて投稿する。こうした訓練を繰り返すことで、住民の災害時のツイッター活用を定着させる。

 すると、災害時には、住民が被災状況の投稿を行い、迅速な状況把握に役立つことに加え、被災した住民から救助等の助けを求める投稿があれば、速やかな共助活動が展開される、そんな理想を描いています。

 

 地域活動には、一切参加しない、あるいは仕事の都合で参加できない。ツイッターのヘビーユーザー。被災状況をツイッター投稿することには協力する。近くに救助を求める投稿を見つけたら助けに行く。そんな人が、私だけでなく、近年は大多数を占めるのではないかと思います。そのような人を、災害時の共助の担い手にする効果が、ツイッター活用の防災訓練にあると思います。

災害情報の集約はツイッターで

災害情報システムが必要だと言われています。その要件としては、

  • 災害発生時、現地の写真等を含むリアルな情報が対策本部等に迅速に集約されるシステム
  • 組織の枠を超えて、迅速に災害情報が共有されるシステム

 ところが、このシステム構築に向けた取り組みは、ことごとく失敗しています。システムを構築したが、肝心の災害情報のコンテンツが集まらない、わずかな情報しか集まらない、結果、現場では使えないといった状況です。

 

 一方、スマホの普及、SNSの利用者増など、ICT関連の社会環境は、この数年で大きく変化しています。そこで、ツイッターに災害情報を集約することで、上記のシステムが構築できるのではないか、と考えました。

 具体的には、

  • 災害時、現地の人が現地の状況をツイッターに投稿(投稿するのは、誰でもOK)
  • 投稿には、#●●市災害と位置情報の付与を必須
  • できれば写真添付で現地状況を説明

 

 災害時、多くの人がこれを実践することで、迅速な災害情報の共有が実現します。自治体レベルの小規模な防災訓練を実施した結果を考察すると、その可能性が極めて高いと思います。

 

 これまでのシステムは、

 限られた関係者が、災害時に現場に急行し、現場の状況を把握して、中継する組織に情報を伝達し、中継組織が中枢組織に情報伝達する、

 といった流れで情報を集約する方法でした。

 この問題点を指摘すると、

  1. 限られた関係者だけが情報発信するので、情報の量が少なくなる
  2. 現場に急行するまでに時間を要する
  3. 中継する組織を経由するので時間を要する

 

 ツイッターに情報集約することで、課題はすべて解決します。

  1. 誰でも情報発信できるので、情報の量が多くなる
  2. 現場にいる人が情報発信するので、移動のタイムロスは小さい
  3. 投稿と同時に誰でも情報にアクセス可能で、タイムロスはゼロ

 

 

 言い方を変えると、

  • 従来は、信頼できる情報のみを集める方式であり、情報の量と伝達時間は度外視していた。
  • ツイッター活用は、情報の信頼性は度外視して、とにかく多くの情報を迅速に集めることを重視した方式です。

 

 ツイッターは不特定多数の大勢の人が、ほとんど匿名で情報発信しているので、そんな情報は信頼できない、と言う人もいますが、工夫次第で十分に解決できます。まず多くの情報が集まれば、多数決の評価が可能です。10人中9人が同じことを投稿していれば、それは信頼できると評価できます。また投稿者のプロフィールや過去投稿に基づき投稿者の信頼性を評価することも可能です。

 そんなの面倒くさくてやってらんねぇ!と言う人もいますが、大丈夫。膨大な投稿情報を評価・整理して、わかりやすく再発信する、といったことを誰かが必ずやります。

 

 と言ったことを考えているんだが、なかなか理解されない。

 

災害は会議室で起きてるんじゃない!

災害現場で起きてるんだ!」

踊る大捜査線、青島刑事の名セリフから、「事件」を「災害」に置き換えたものです。

 

趣旨は、

  • 発災直後の現場の情報は、
  • 会議室を経由せず、
  • 現場からダイレクトに情報をオープンにすべき。

ということです。

 

現状、災害発生時の行政等における災害情報の一般的な流れは、

災害発生

 →現場トロールで被災箇所発見

 →パトロールから戻って、情報を整理して上司に報告

  →上司が複数箇所の情報を整理して上位機関に報告

   →上位機関(会議室)が情報を整理して本部に報告

    →本部(会議室)が全体を整理してトップに報告

    →本部から記者発表、PDFをホームページ掲載

 

概ねこのような流れかと思います。(ただし、気象や河川水位等のセンサーデータに基づく情報は、迅速(ほぼリアルタイム)に発表・公開されています。)

 

現状では、以下のような課題点があります。

  • 情報がオープンになるまでに時間がかかる。
  • 個別箇所の詳細情報が伝わらない。
  • 情報の中継機関が被災すると、その先に情報が伝わらない。

 

災害時、現場の関係機関は、初動対応を判断するために、どこが、どうなってんのか?といった情報が一刻も早く必要となります。組織内の情報だけでなく、組織の枠を超えた迅速な災害情報の共有が必要です。これは昔から言われていることですが、未だに実現できていません。

 

被災地の住民も避難勧告等を待つだけでなく、自主避難などを的確に判断できるように、詳細な周辺状況の情報を迅速に届ける仕組みが必要です。ちなみにテレビのニュースは目立つ場所の情報が中心となるので、あてになりません。また被災等で市町村が沈黙する事例もあり、これを想定することが必要です。

 

これらの課題をツイッター活用で簡単に解決できると思います。

災害発生

 誰かが被災箇所発見

 ➔その場で、#◯◯市災害+写真+位置情報を付けて、ツイッターに投稿

 

多くの人がこれを実践するだけで、組織の枠を超えた迅速な災害情報の共有が実現します。投稿するのは、住民、行政職員、建設会社社員、消防団員、水防団員、たまたま現場に居た人、現場に急行した人など誰でもオッケーです。

しかも、コストは基本的にゼロです。(投稿する際に使うスマホの費用とパケット通信費用等が発生します。)

 

ツイートには最低限、#◯◯市災害 に加えて、どこが、どんな状況なのか、が判るようにすることを必須とします。データの標準化など難しいことを、忙しい現場の人に求めるのは無理です。無理なことを求めても実態が伴わず、無意味です。データの標準化は、それを必要とする誰かが、ツイートされた情報に基づいて実施すれば済むと思います。

 情報を閲覧する方法は、ツイッター#◯◯市災害 を検索するだけです。極めて簡単です。

 

ツイッターは誰でも投稿できる、といった特徴があることから、ウソやデマが投稿される可能性があり、個別情報の信頼性の確保が課題となります。しかし、以下のような対応で解決できると思います。

  • ツイッター活用の防災訓練を実施し、各自でツイート情報の信頼性を見極める能力を持つようにする。
  • ツイートの中から、信頼性の低い情報を排除し、信頼できる情報のみを整理して公開する、といったことを、誰かが実施する。
  • デマが投稿された際には、誰かが、デマの否定・注意情報を、#◯◯市災害 を付けて投稿する。 

 

逆に、信頼できる情報だけを扱う災害情報共有システムは、システム構築・運営コストの問題、情報量の確保、情報の迅速性、情報の伝達範囲など、根本的かつ解決困難な課題が多数あると思います。これまでに災害情報システムの構築に向けた様々な取り組みがありますが、満足に機能したものが存在しない事実が、このことを実証していると思います。

 

災害時のツイッター活用の実例として、群馬県建設業協会が災害情報をツイッターで情報発信しています。詳しくは、協会のアカウント @gunken000 を御覧下さい。

埼玉県和光市などでは、ツイッター活用の防災訓練を繰り返し実施中です。和光市では、ゲリラ豪雨発生時に市内の状況把握に役立った事例もあります。

 

いかがでしょうか?

発災直後の現場情報を、数多く集め、迅速に、広く共有する方法として、現時点でこれに勝る方法は無い、と思います。ただし、この方法が普及すれば...の話になりますが...

また一般論として「災害専用システムは災害時に使われず、日常使っているシステムを災害時に活用すべし。」と言われており、まさに、これに合致した方法になります。

 

ちなみに、ユーザー数が多い他のサービスとして、フェイスブック、ライン、インスタグラムでは、ジオタグ活用やAPI等に課題があり、現時点では災害情報共有にはツイッターがベストだと思います。

アクティブ・ソナーとパッシブ・ソナー

ツイッターで災害情報を収集する方法を、潜水艦のソナーに例えると、2種類に分類できます。

 

① パッシブ・ソナー方式

 黙って聞き耳を立てて、様々な音の中から必要な情報を聞き分ける

② アクティブ・ソナー方式

 探針音を発し、反射音を活用する

 

パッシブソナー方式

パッシブ・ソナーとは、黙って聞き耳をたてて、水中の様々な音の中から敵潜水艦のスクリュー音を聞き分けて、その存在を察知する方法です。

 

ツイッターの中から災害情報を収集する際、膨大なツイートの中から、様々な検索などを駆使して、必要なツイートを抽出する方式となります。場合によっては高度な検索テクニックが必要となります。

最近は災害情報等を自動抽出するシステムが開発され、実際に報道機関などで使われています。具体的には、Spectee が開発したシステムを、多くの報道機関や自治体が採用しているとのことです。

この他、情報通信研究機構NICT)が、対災害SNS情報分析システムDISAANAと言うシステムを開発しています。これは、誰でも使える無料システムとして公開されています。

 

 

アクティブ・ソナー方式

アクティブ・ソナーとは、自ら探針音(ピンガー)を出し、物体がこれを反射する音を聞き取り、敵潜水艦の存在等を察知する方法です。

 

和光市などが実施しているツイッターハッシュタグを活用して、災害情報を収集する方法は、このアクティブ・ソナー方式となります。

 まず「災害時に現場の状況を、#◯◯市災害 のハッシュタグをつけてツイートして下さい。」と自治体等から住民にお願いすること、これが探針音になります。

そして、この探針音(お願い)に呼応した市民が、災害現場の状況をツイートします。これが反射音になります。

反射音に相当するツイートの抽出は、ハッシュタグ検索するだけなので、きわめて簡単です。

 

両者の方式の比較

パッシブ・ソナー方式は、情報の抽出が難しい、といったデメリットがあります。

前述のNICT開発のDISAANAは、無料なので、6月18日の山形県沖の地震発生時に使ってみましたが、思うように情報を取得することができませんでした。

有料のSpecteeのサービスは、先日、デモを拝見しましたが、画像解析から、様々な情報を抽出する機能が凄く、多くの報道機関等が採用しているだけあって、かなりの優れものみたいです。でも有料なだけに、一般住民が使うわけにはいかないと思います。

また、全く音を出さない存在=ツイッター等で情報発信しない人からの情報は得られません。

 

アクティブ・ソナー方式は、探針音の出し方が重要となります。すなわち災害時に#◯◯市災害 のハッシュタグをつけて、現地状況をツイートして下さい、といったお願いが、多くの住民に届き、多くの住民が実際にツイートしてくれるか、これが重要です。そのため、防災訓練などを通じて、このツイッター活用方法について、多くの住民に知ってもらい、災害時に実際にツイートするようになることが重要となります。

防災訓練等により、このようなツイッター活用方法の目的・意義などの周知が進むことで、多くの人からのツイートが期待でき、場合によっては、それまでツイッターを使っていない人も、防災訓練をきっかけに災害時にツイッターで情報発信するようになることも期待できます。

 

両者の方式を比較しましたが、両者は相反するものではありません。

アクティブ・ソナー方式の周知・浸透により、災害時に現地状況を的確に伝えるツイートが多くなれば、パッシブ・ソナー方式でも、詳しい災害情報の抽出が、より確度高く行えるようになり、パッシブ・ソナー方式の有効性も高まると思います。

 

最後に

ツイッターの利用は、基本的に個人の自由です。他人の迷惑等にならなければ、どんな内容をツイートするのも自由です。

であれば、災害時に、多くの人の役に立つように、所定のハッシュタグをつけて、現地状況を的確に伝える投稿をするのも自由です。

あなたは、どうしますか?

災害情報の信頼性と迅速性、大事なのはどっち?

台風、大雨、地震など災害が発生した際、状況を把握するための情報が必要となります。

これは、関係機関だけでなく、被災地に自分自身や家族・知人等が居る場合にも、災害情報が必要となります。

 

実態として、気象庁からは雨量、風速、震度の規模、津波の有無などが迅速に発表され、テレビやネットを通じて情報を得ることができます。

しかし、実際に現場はどうなってるんだ?被害状況は?といった情報については、なかなか得ることができません。

 

そのような被害状況などの災害情報のあり方について、考察します。
 

 

1.災害直後に必要な情報の要件

 災害の発生直後、的確に行動するためには、周囲の状況に関する情報が必要です。その情報に求められる要件には、以下の項目があると思います。

  • 情報の迅速性 (できるだけ早く情報が必要)
  • 情報の量 (できるだけ多くの情報が必要)
  • 情報の信頼性 (信頼性が高い情報が必要)

 

 

2.災害時のツイッター情報
 これまで紹介した災害時のツイッター活用
 簡単に言えば「災害時に、#◯◯市災害 と位置の情報をつけて、現地の状況をツイートして下さい。」と広くお願いする方法について考察します。

 

 情報の迅速性は極めて高いです。災害発生時、現地にいる人が現地の状況をツイートするだけなので、発災直後から情報が得られます。

 情報のについては、ツイッター活用方法の浸透の程度によると思います。防災訓練を繰り返す等により、住民への浸透が進めば、多くの住民からの投稿=多くの情報が期待できるようになります。
 情報の信頼性は、極めて低いです。『誰でも、匿名でも良いから、現地の状況をツイートして下さい。』としていることから、情報の信頼性が低いことになります。

 

 以上を整理すると、災害時のツイッター情報については、

  • 情報の迅速性は、極めて高い
  • 情報の量は、住民への浸透状況次第で、多くの情報が期待できる。
  • 情報の信頼性は、極めて低い

と評価できます。

 

 

3.事例の考察

 これまでの和光市をはじめとするツイッター活用の防災訓練や大雨の事例では、迅速に状況把握に役立つツイートが投稿されました。一部の訓練で少数のイタズラ投稿が見られましたが、いずれも無視すれば済む程度の状況でした。

 投稿者について匿名可とすることで情報の信頼性は低くなりますが、その情報源が使えるか、使えないかは、別問題だと思います。
 また、情報の信頼性は低くとも、信頼性を評価しながら使うことが可能です。具体的な信頼性を評価する方法としては、下記が考えられます。

  • 投稿者のプロフィールと投稿履歴から評価*1
  • 他者の投稿情報と比較して評価*2

 

4.角を矯めて牛を殺す

 災害時のツイッター活用は、情報の信頼性には目をつぶり、情報の迅速性と情報の量を重視した方法です。そして、集まった情報について、各自で信頼性を評価しながら活用するものです。

 これを批判する意見もあります。

  • 一般の目に触れる災害情報は、事前に信頼性が高い情報に限定すべきである。
  • 匿名投稿の中には、ウソ・デマが混入している可能性がある。

 しかし、投稿者の事前登録などを行い、匿名不可、住所・氏名・年齢・職業等の登録など情報提供の敷居を高くすることは、投稿者の減少=情報の量が損なわれることになると思います。すなわち「角を矯めて牛を殺す。」ことになると思います。

 

 

5.トレード・オフ

 災害情報の信頼性を重視すると、迅速性がどうなるかを想定してみます。

  • 災害時、市役所に住民から被災状況に関する情報が寄せらました。
  • 市役所が、その情報を国や県への報告等に活用する前に、本当かどうか、情報の信頼性を確認する必要があります。
  • このため、市役所から職員等が現地へ行き、状況を確認した後で情報を活用することになり、情報活用までのタイムラグが発生し、情報の迅速性が低下します。
  • 現地へ行く人員・体制の不足や交通マヒで現地に行けない、といった状況になると、寄せられた情報は未確認情報=信頼性が確保されない情報となり、活用されない情報になります。

 

 このように信頼性を重視すると、情報活用の迅速性が低下し、未確認情報は活用されない状態となるケースも生じ、その結果、活用できる情報の量も少なくなる、と想定されます。

  

 すなわち、災害時の情報について、情報の信頼性を重視すれば、情報の迅速性+量が低下する、といったトレード・オフの関係があると思います。

 

  

6.さいごに

 前述のように、「情報の信頼性」と「情報の迅速性+量」の間にトレード・オフの関係があるとすれば、災害情報の収集・共有の仕組みづくりにおいて、2つのアプローチがあると思います。

  • 迅速に多くの情報を集めた後、情報の信頼性を評価しながら活用する。
  • 信頼できる情報を集めるシステムを構築し、その迅速性を高め、情報量を増やす方策を講じる。

 

  ツイッターという既存サービスを活用することで、前者は簡単に導入できるものと思います。

*1:ツイッターには投稿者のプロフィールを閲覧できる機能があります。また投稿者の過去投稿も簡単に閲覧でき、信頼性評価の参考に使えると思います。例えば、過去の防災訓練に参加している者は、大いに信頼できる。取得直後のアカウントやふざけた投稿ばかりしている者は信頼できない、など

*2:特定エリアの状況を伝えるツイートが複数者から投稿され、複数者が同様の内容を伝えているのであれば、その内容は信頼できると評価できます。一人だけ目立つ内容で投稿しているケースは、疑うべきです。

*3:被災地の中でジオタグを添付し、自分の居場所を明示してウソ・デマを投稿するケースは考えにくいと思います。ジオタグの偽装は、一般的には難しいです。

災害時、建設会社が現場状況をツイート

 災害発生時、真っ先に現場に急行するのは、施設の管理者や地域の建設会社です。(火災を除きます。)

 

 災害現場に急行した者が、現場の状況をツイートすることで、その情報が広く、迅速に伝わります。

 

 実際に、一般社団法人群馬県建設業協会(以下、「群建協」)が実施している事例を紹介します。

 

 

1.群馬県建設業協会の取り組み

 群建協は、群馬県内の建設会社によって構成される団体です。

 群建協では、従来から災害時に関係機関と情報共有するととも、協会ホームページに災害情報を掲載していました。そして、近年のSNSの普及等の社会変革を踏まえ、2014年より災害情報をツイートする取り組みを実施しています。また冬期間は除雪の実施状況や路面状況をツイートしています。

 ツイッターのアカウントは、@gunken000 です。

 ちなみに、ツイッター投稿システムの愛称は「ぐんケン見張るくん」です。

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2.ツイートの例

 (1)みなかみ町で国道の土砂崩れ(2015年7月)

 みなかみ町の国道で土砂崩れが発生した際、群建協の会員会社が現場へ急行し、復旧工事を実施しました。その様子を逐一ツイートしています。地元紙にも好意的に取り上げられています。

 

●ネットのニュースの第一報

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●群建協のツイート

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#みなかみ町災害 until:2015-07-22 - Twitter Search

 

●地元紙の記事

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(2)北関東豪雨(2015年9月)

 茨城県内で鬼怒川決壊などの被害が出た北関東豪雨の際、群馬県内でも被害が発生しました。下記は、桐生市内で発生した法面崩落の現場のツイートです。

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#桐生市災害 until:2015-09-12 - Twitter Search

 

  群建協の災害時のツイートには、ジオタグ(緯度経度の位置情報)が付与されています。このジオタグを活用して、地図上に展開表示することができます。下の図は、桐生市の災害現場のツイートを「ちずツイ」を使って表示したものです。

 このように表示することで、どこが、どんな状況なのか、といった状況把握に役立つと思います。

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(3)台風21号(2017年10月)

 台風により、倒木や小規模崩落などの被害が群馬県内各地で発生しました。その状況を逐一ツイートしています。

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(4)除雪対応

 群建協では、除雪作業の状況についても、逐一ツイートしています。

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 from:@gunken000 #路面状況 - Twitter Search

 

 下図のように「ちずツイ」で表示すると、除雪作業が広域に渡って行われている状況が把握できます。表示エリアを絞り込むことで、特定箇所の状況を知ることができ、車で外出する際の参考情報として役に立つと思います。

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3.考察

(1)災害時の情報源として有効

 災害時、迅速・詳細に現場の状況を知るための情報源として、群建協のツイートは大いに役立つものと考えられます。

 特に、ジオタグが付与されていることから、下記のメリットがあります。

  • ピンポイントで位置の特定が可能
  • 自分の知りたい場所の情報に絞り込むことが容易
  • 複数のツイートをPC画面の地図上に展開・表示し、俯瞰的な状況把握が容易(ちずツイなどを活用】

 

(2)市町村には無理

 災害時の現場の情報は、建設会社ではなく、市町村などが情報発信すべき、と考える人もいると思います。

 しかし、市町村には無理だと思います。ほとんどの市町村は、災害パトロール等の体制が不十分で、自ら現地の状況を迅速に把握することはできません。

 また、建設会社や住民が市町村に現場の情報を伝えても、その情報をもとに迅速・的確に住民向けに情報発信することは、市町村にはできないと思います。

 過去の災害において、市町村役場の庁舎の被災などにより、結果として発災直後に的確に機能しなかった事例が複数あります。内閣府策定の「市町村のための水害対応の手引き」の中でも、水害時に市町村が機能しなかった事例が具体的に示されています。

 

(3)広報としての効果

 地域の建設会社は、公共工事や建築工事などの他に、災害対応や除雪等を実施しています。地域の生活・産業を支える上で不可欠な存在ですが、その活動内容が、一般住民に十分に知られていないと思います。

  建設会社が広報するとすれば、

「◯◯建設は、皆様の生活を守るため、災害対応に日夜努力しています。」

といったメッセージ公告を新聞に掲載するなど考えられますが、効果は小さいと思います。大手ゼネコンがコマーシャルをテレビに流しているケースもありますが、中小規模の建設会社では、予算的に到底無理です。

 しかし、時代が変革し、若者を中心に多くの人が、スマホソーシャルメディアを自由自在に活用して、いつでもどこでも情報を発信・収集する時代となりました。そのトレンドは加速すると思います。

 そうした時代の変革を踏まえると、地域の建設会社が災害現場で尽力しているナマの姿をリアルに伝え続ける、そうしたことを継続することにより、地域に不可欠な存在であることを多くの人に理解してもらう、そうした広報を進めるべきと思います。

 従来の広報媒体はマスメディアがメインでしたが、これからはソーシャルメディアが主役になると思います。特に、地域に密着して地域のために活動している建設会社こそ、地域住民向けにソーシャルメディアで広報すべきと思います。

 

(4)モチベーション向上

 一般論として、感謝されると、モチベーションが上がります。

 群建協のツイートに対しては、ツイッターのリプライ機能により、住民から感謝・ねぎらいのメッセージが、少数ですが送られています。これらのメッセージを、現場で従事している者に届けることにより、現場のモチベーションが上がると期待されます。

 

 夜中に大雪が降った翌朝、道路がキレイに除雪されていたとします。住民として、除雪した者へ感謝の気持ちを伝えたくとも、従来はその手段が無かったものが、ツイッターを利用することで、気軽に伝えることができます。そして感謝の気持ちを伝えられた者だけでなく、伝えた者にもプラスの効果があると、心理学的に言われています。 

ポジティブ心理学 「ありがとう」が仕事や勉強に与える嬉しい効果 | コラム

 

  ここで紹介した群建協のツイッター活用のように、

  • 災害等の現場で頑張っているナマの姿をリアルに伝える。
  • 住民から感謝のメッセージが届けられる。

 このようなコミュニケーションが活発になることは、サービスをする側・受ける側の双方に、プラスの効果を与えることになります。

ツイッターで救助要請する先は、ご近所さん(共助)

災害時に、ツイッターで救助要請する際、その担い手は近所の人=共助

を想定すべきといったお話です。

 

 1.東日本大震災の事例

 東日本大震災で、気仙沼の奇跡と言われている事例があります。

www.asahi.com

 

 気仙沼の施設に取り残された大勢の人に関して、ツイッター等を活用した情報連携により、猪瀬東京都副知事(当時)に情報が届き、東京都のヘリが気仙沼の現場へ行き、取り残された人を救助した事例です。多くの人の命を救った素晴らしい事例だと思います。

 しかし、この事例は、奇跡的な偶然が重なって実現したものであり、その再現を目指すべきではないと思います。

 

 

 2.大規模災害では公的救助の迅速対応は困難

 大規模災害では、公的機関による救助「公助」は手いっぱいとなり、迅速な対応は期待できない。ご近所同士で助け合う「共助」が大事、と言われています。

 実際に、阪神淡路大震災では、建物に生き埋めになった人のほとんどが、ご近所の人によりで救助されたと報告されています。

 防災白書でも、大規模広域災害では迅速な公助は困難、共助が重要と記載しています。

東日本大震災等の大規模広域災害の発災時には、行政が全ての被災者を迅速に支援することが難しいこと、行政自身が被災して機能が麻痺するような場合があることが明確になった(「公助の限界」)。

そのような場合には、発災後しばらくの間は、行政の支援を受けることなく、地域住民が自発的に避難行動を行ったり、地域コミュニティで助け合って、救助活動、避難誘導、避難所運営等を行うことが重要になってくる。

平成26年版 防災白書|特集 第2章 1 大規模広域災害時の自助・共助の例 : 防災情報のページ - 内閣府

 

 

 実際に、西日本豪雨でも、多数の被災者が119番に救助要請しても、手一杯で迅速対応できない事態が発生しています。

mainichi.jp

 

 

3.共助の課題

 地域コミュニティ活動が活発で、消防団や自主防災組織が機能している地域では、災害時に速やかな共助が展開されると期待されます。

 しかし、近年、地方部では人口減少と高齢化が進展。都市部では地域コミュティ活動が衰退。このため、共助がちゃんと展開されるか、大いに不安です。

 

 

4.『#〇〇市災害』で、ご近所に共助を要請

 前提:大規模災害時、迅速な公助は期待できない。

 

 大規模災害で、救助要請する場合、迅速な公助が期待できない。とすると、救助の担い手は、ご近所の人=共助となります。したがって、救助要請の情報がご近所の人に届くことが重要になります。

 そのためにも #〇〇市災害 ハッシュタグを活用した防災訓練が重要となります。

  • ツイッター#〇〇市災害 活用の防災訓練を継続的に実施
  • 災害時に多くの住民が、#〇〇市災害 で情報発信・情報収集することが定着
  • #〇〇市災害 をつけて救助要請が投稿された場合、速やかに近所の住民が情報をキャッチし、住民による救助(共助)が行われる

 

 災害時のツイッター#〇〇市災害の活用は、第一の目的は、住民相互に地域内の災害情報を共有することですが、その発展として、救助要請の情報も共有されることにより、共助活動のキッカケにもなると思います。

 

5.地域防災力 

 従来型の地域コミュニティは、都市部、地方部を通じて衰退傾向にあると思います。一方、スマホの普及とSNSの利用者増が進んでいます。

 こうした社会の変化を踏まえ、効率的に、共助の潜在力を高めるためには、どうしたら良いでしょう?

 ✖ 従来型の地域コミュニティの活発化を目指す

 〇 ツイッター#〇〇市災害の災害情報共有を活発化させる

 

 平日夜や休日に、公民館に集まって、災害時の対応や地域のイベントを話し合いましょう、なんて言われても、仕事の都合などで、参加者は集まらないです。私も参加しません。

 それよりも、防災訓練などを通じて、ツイッター#〇〇市災害による地域住民相互の災害情報共有を定着させることが、共助の潜在力を高め、ひいては地域防災力の強化になると思います。

 

6.#災害 は課題あり

 ツイッタージャパンでは、#救助 のハッシュタグを付与することを推奨しています。

 

 しかし、#救助 のハッシュタグは全国共通のタグとなります。実態として災害時に膨大なノイズツイートが発生し、救助要請ツイートがあったとしても、ノイズに埋没し、近所の人に届かない可能性が大きいと思います。

 消防当局も、災害時には現場は手いっぱいで、ツイッターを見ている余裕はない、としています。

https://mainichi.jp/articles/20170804/mog/00m/040/003000c

  遠隔地の人が、救助要請のツイートを発見し、119番に通報しても消防は手いっぱいで、対応できないことになります。交通マヒなどで遠隔地の人が速やかに駆けつけることは不可能です。

 

 一方、#〇〇市災害 は地域別のハッシュタグであり、主な利用者は地域住民となることから、ノイズが少なく、近隣住民に情報が届く可能性が大きいと想定されます。

 

格言

 災害時、頼りになるのは、

  遠くのフォロワーより、

   近所で#〇〇市災害 を使う人